和歌山電鐵 社長
小嶋光信
今年の3月31日で、誰も出来るわけないと思われた貴志川線再建の10年の約束を果たし、新たな準公設民営による運営になりました。
和歌山電鐵や中国バス、井笠バスカンパニーなどでの再建が背景になり、地域公共交通活性化法や交通政策基本法ができ、これからの地域公共交通は旧来の業者任せの孤軍奮闘型から事業者と自治体と市民などが一体になって維持する体制になったこともあり、その記念も兼ねて新しい電車を創ることにしました。
さてどんな電車を創ろうかと思案していたところに、水戸岡さんデザインによるJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」の鮮烈なデビューを目の当たりにしました。
いやぁ~、色々な企画や開発をしてきましたが、このコンセプトとデザインと実行力には本当に心から感服しました。
さてJR九州の「ななつ星」に負けない電車のアイデアは何かと知恵を絞りに絞って考えました。
企業規模が違いから、投資額ではかなわないので、ユニークさでは負けないインパクトのある電車を目指しました。小さいながら地域鉄道としてキラ星のごとく輝く「うめ星電車!」が閃きました。
和歌山県の南高梅は、大きな柔らかい世界一の梅の実であり、この梅を世界に発信する電車として考えました。南高梅は、2006年には地域団体商標制度の認定第一弾として地域ブランドに認定されています。奇しくもこの電車の構想の発表に呼応するように、和歌山県を代表する特産物である「南高梅」等が「みなべ・田辺の梅システム」として、昨年世界農業遺産にもなりました。
南高梅は和歌山県のみなべ町や田辺市が代表的産地ですが、押しも押されもせぬ和歌山県の代表的産物ですから、和歌山電鐵でも応援し、最も日本で愛され、健康に良い梅干しを、日本だけでなく世界に紹介して地域産業にも貢献したいと思っています。
最初は、あまりにユニークすぎて「梅干し??」という声もありましたが、「梅干し」から「うめ星」に連想がだんだん広がっていきました。水戸岡さんに構想を伝えると、嬉しそうにというか、少し困ったというか「ななつ星に対抗してうめ星‥‥やられた〜!」と言って気持ち良くデザインを引き受けてくれました。
最大の難関は電車の色でした。梅干しには幾つかの種類がありその代表は白梅干しで次に赤しそ漬けの梅干しです。その中でも華やかな色の赤しその梅干しの色を選びましたが、赤紫色はデザインでも難しい色で、水戸岡さんと色々議論しました。実際の赤しその梅干しの色の中から見本を選び、赤紫色でも落ち着いた華やかな色で、更に星の輝きでメタリックにすることにしました。
これから先のデザインは水戸岡ワールドであり、全て水戸岡さんにお任せして進めていただきました。うめ星電車を和のテイストで作るということで、今まで電車で使われなかった和紙や木張りの天井や、団体貸切用の畳などアッと驚くデザイン性と斬新さです。汚れる、破れる、壊される、などとして電車では使いづらいとされている、良質の素材をふんだんに使えたのも、お客様が今までの改装車両を大事に綺麗に乗ってくれたから実現したのです。
楽しく豪華な電車旅行のイントロとしてこの素晴らしい「うめ星電車」に手軽に乗っていただいて、九州が誇る「ななつ星」や「或る列車」にも是非乗りに行っていただいて、熊本大震災で観光が落ち込んでいる九州の応援になればと思っています。