両備グループ
代表兼CEO 小嶋光信
国は「バス新規参入に自治体意見=交通維持へ地域の声反映」ということで2020年の通常国会で地域公共交通活性化再生法の改正が行われることになりました。
しかし、一方で岡山市で起こった「良いとこどり路線認可」に対する高裁の判断は、「原告適格なし」となり、瑕疵のある異常な国の路線認可については審理が行われず結論が出されませんでした。地方公共交通の維持に重大な影響を及ぼすような不当な認可に対して、司法に判断を求めることすら認められないとする判決は大変遺憾に思います。
ただ、将来の地方公共交通維持に関しては前述の如く今国会で法改正が行われる予定であり、一定の前進が見込まれるため、上告するかは本判決も含め総合的に判断して方針を決めていきたいと思います。
【法改正までの経緯】
私は両備グループのトップとして地方の生活交通を何としてでも維持していきたいという思いで、平成30年(2018年)2月8日に赤字路線を支える黒字路線を狙い撃ちにした「良いとこどり」の路線進出に反対して31路線の廃止届を提出し、地方における公共交通の国の競争政策への在り方に問題提起をさせていただきました。
これに対し、少子高齢化の地方の実情について即座に、「地方では競争と路線維持を両立させることは難しいと理解」したと国交大臣と総理大臣が表明され、国として地方の生活路線の維持に向けた検討がなされるようになりました。
今回の法改正の報は、それぞれの地方で、業績不振と運転手不足の板挟みの中を必死に地域の生活路線を守っているバス路線事業者にとっては、我々の苦労が報われるように国の政策が動く前兆とも思え、法改正前で細部は分かりませんが令和の時代の初正月にお年玉になるような朗報としてまずは感謝しています。
2000年、2002年の規制緩和で運送法など交通に競争政策が持ち込まれ「利用者の利益」が優先されることになりましたが、少子高齢化の地方における「利用者の利益」は「路線の維持」が最優先に変わってきていることは2016年の岡山市のアンケートなどで既に明らかです。ということは現行法での「利用者の利益」から考えても「路線維持」が出来なくなるような敵対的進出は利用者の利益にならないことは明らかで、時代が変わったということへの国の認識が足りなかった認可といえるでしょう。
岡山市では20数年来、岡山県バス協会も地域協議会を設けるように要請していましたが、これらの動きの中でやっと昨年から法定協議会が設けられるようになりました。しっかりした地域では現行法でも法定協議会や地域協議会、地域公共交通会議などを駆使して敵対的低運賃での新規参入や撤退および増減便などの市民生活の足の維持について、自治体や市民や事業者の意向を確認して進めているのが地方の生活路線維持の実態です。
今回の法改正で更に法的に「良いとこどり」などの新規路線の敵対的進出には「地域の声が反映」され、路線網破壊を防ぐことができるようになるでしょう。
【これからの課題】
今回行われる法改正で新規参入などに地域の声は反映されますし、近々実施が予定されている独禁法改正で、複数の路線事業者の協業などにより更に路線維持が図りやすくはなるでしょうが、根本の路線事業の赤字体質を解決するまでには至らないでしょう。
問題は約80%以上の地方路線バス業者が赤字、黒字を維持している会社でも、その約80%以上の路線は赤字と、地域交通の健全な経営が維持出来なくなっている現状について根本問題の解決が必要です。
この少子高齢化が進む惨憺たる状態の地域交通を、どのようにサステナブルに維持するかの抜本的な改革が必要であると今までも主張してきました。本質的な経営の構造を改めなければ維持は不可能でしょう。
日本の地方には人口の80%弱の約1億人が生活しています。この少子高齢化の地方が日本の大多数であり、法はこの原点をとらえるべきです。競争政策は、必要な需要が供給を上回っている地域では有効ですが、それは東京や大阪や名古屋や政令市の中心部のわずかです。本来法律は国民のためにあり、大多数を占める地方がスタンダードです。競争の必要な一部の大都市に向く競争政策の法律が地方の力を過当競争で殺ぎ、地方創生と言いながら現実は改善どころか地方消滅が叫ばれる遠因になっていることを理解することです。
1980年代のサッチャー政権の交通の競争政策の大失敗をイギリスは1990年代から大変苦労して直していきましたが、これを学ばずに行われた日本の規制緩和は、早急にイギリスなど先進国が如何にこれらの失敗をどのように克服したかを今こそ学び、解決すべきです。
【結論:3つの国家施策が必要】
地方の交通を救うための今後の解決策には3つの国家施策が必要です。
1.抜本的な運送法などの改正の必要
手直しではなく運送法などの競争政策を需要と供給の両方を勘案し秩序ある交通の維持を図るように抜本的法改正をすること。例外はむしろ東京や大阪や名古屋などで、これらは特例法により競争促進を図ることです。
2.生活交通を維持する財源の確保
先進国並みに生活交通維持の財源の確保が無ければ、現状の地方自治体中心の補助金制度では支えられなくなります。燃料税の一部や環境税の一部として「生活交通税」などの財源の新設を図るべきです。
これからの生活交通も高齢化社会のバリアフリー化とともにEV化、IT化、自動化となど大きな変革が見込まれますが、今までの財源のやり方では赤字大半の地方の事業者に投資能力はなく、日本の地方は中国やヨーロッパ諸国の進歩などに比較してはるかに後れをとることになるでしょう。
3.乗って残そう公共交通国民運動の展開
公共交通は「乗って残す」ことが大事で、マイカー中心の社会から、マイカーとの共生の社会を創るために先進諸国の公共交通中心の社会づくりを早く導入すべきです。国民が地域公共交通を優先して利用する社会の構築をすることが、 国民の健康を増進し、都市をより安全に活性化し、環境の保護にも役立つでしょう。
2010年に岡山市を一つのモデルとして発表した小生の「エコ公共交通大国構想」をご参考にしてください。https://git-web.com/ryobigr_2024/wp-content/uploads/2010/05/100506-teigen.pdf
実はエコな公共交通大国つくりがエコな公共交通手段の開発となり、運行のシステムとともに自動車産業に次ぐ新輸出産業つくりになるのです。
東京を中心に政治や行政や物事が考えられていますが、この東京で研究し、対策を練るとどうしても地方の問題は矮小化されていきます。現状の地域の生活交通の維持は、問題がおこるたびに改善する問題対処方式ではなく、抜本的に改革し、中・長期的に維持を図らなければ地方生活路線の消滅の不安は消えません。
私は数多くの地方交通事業を再建してきましたが、衰退産業を生き返らせるのは小手先ではなく抜本的な構造改善をしないと生き残らないのです。現状の80%以上の赤字産業は金融庁が分析すれば「業界として破綻先」であり、総理主導の国を挙げて地方交通の実務の分かった産学官のプロによる上記3施策による構造改善を提案します。
地方創生の要は、生活交通の維持です。
弊グループは、引き続き日本の生活交通維持への抜本的改革のために全力で取り組んで参りますので、今後ともご支援宜しくお願いします。