両備グループ
代表兼CEO 小嶋光信
2020年1月6日付、官庁速報(iJAMP:インターネット版行政情報サービス) では、「バス新規参入に自治体意見=交通維持へ地域の声反映」ということで2020年の通常国会で地域公共交通活性化再生法と運送法の改正が行われることになりました。
地方の生活交通を何としてでも維持していきたいという思いで、平成30年(2018年)2月8日に赤字路線を支える黒字路線を狙い撃ちにした「良いとこどり」の路線進出に反対して31路線の廃止届を提出し、地方における公共交通の国の競争政策への在り方の問題提起をさせていただきました。
これに対し、少子高齢化の地方の実情について即座に、「地方では競争と路線維持を両立させることは難しいと理解」したと国交大臣と総理大臣が表明され、国として地方の生活路線の維持に向けた検討がなされるようになりました。
それぞれの地方で、業績不振と運転手不足の板挟みの中を必死に地域の生活路線を守っているバス路線事業者には、令和の時代の初正月にお年玉になるような朗報といえ、速報で細部は分かりませんが、まずは感謝しています。
規制緩和で運送法など交通に競争政策が持ち込まれ「利用者の利益」が優先されることになりましたが、少子高齢化の地方における「利用者の利益」は「路線の維持」が最優先になっていることは2016年の岡山市のアンケートなどで既に明らかです。
岡山市では20数年来、岡山県バス協会も地域協議会を設けるように要請していましたが、これらの動きの中でやっと昨年から法定協議会が設けられるようになりました。しっかりした地域では現行法でも法定協議会や地域協議会、地域公共交通会議などを駆使して新規参入や撤退および増減便などの市民生活の足の維持について、自治体や市民や事業者の意向を確認して進めているのが地方の生活路線維持の実態です。これで更に法的に「良いとこどり」などの新規路線の敵対的進出には「地域の声が反映」され、路線網破壊を防ぐことができるようになるでしょう。
今回行われるであろう法改正で、新規参入などに地域の声は反映されますし、近々実施が予定されている独禁法改正で、複数の路線事業者の協業などにより更に路線維持が図りやすくはなるでしょうが、根本の路線事業の赤字体質を解決するまでには至らないでしょう。問題は80%以上の路線バス業者が赤字、黒字を維持している会社でも、その80%以上の路線は赤字と、地域交通の健全な経営が維持出来なくなっている現状について根本問題の解決が必要です。この少子高齢化が進む惨憺たる状態の地域交通を、どのようにサステナブルに維持するかの抜本的な改革が必要である、と今までも主張してきました。本質的な経営の構造を改めなければ維持は不可能でしょう。
日本の地方には人口の80%弱の約1億人が生活しています。この少子高齢化の地方が日本の大多数であり、法はこの原点をとらえるべきです。競争政策は必要な需要が供給を上回っている地域では有効ですが、それは東京や大阪や名古屋と政令市の中心部のわずかです。本来法律は国民のためにあり、大多数を占める地方がスタンダードです。競争の必要な一部の大都市に向く競争政策の法律が地方の力を過当競争で殺ぎ、地方創生と言いながら現実は改善どころか地方消滅が叫ばれる遠因になっていることを理解することです。
1980年代のサッチャー政権の交通政策の失敗をイギリスは1990年代から大変苦労して直していきましたが、日本はイギリスなど先進国がこの失敗をどのように克服したか、今こそ学ぶべきです。
地方の交通を救うための今後の解決策には3つの国家施策が必要です。
1.抜本的な運送法などの改正の必要
手直しではなく運送法などの競争政策を需要と供給の両方を勘案し秩序ある交通の維持を図るように抜本的法改正をすること。例外はむしろ東京や大阪や名古屋などで、これらは特例法により競争促進を図ることです。
2.生活交通を維持する財源の確保
先進国並みに生活交通維持の財源の確保が無ければ、現状の地方自治体中心の補助金制度では支えられなくなります。燃料税の一部や環境税の一部として「生活交通税」などの財源の新設を図るべきです。
3.乗って残そう公共交通国民運動の展開
マイカー中心から、マイカーとの共生の社会を創るために先進諸国の公共交通中心の社会づくりを早く導入すべきです。
東京を中心に政治や行政や物事が考えられていますが、この東京で研究し、対策を練るとどうしても地方の問題は矮小化されていきます。現状の地域の生活交通の維持は、問題がおこるたびに改善する対処方式ではなく、抜本的に改革し、中・長期的に維持を図らなければ地方生活路線の消滅の不安は消えません。
私は数多くの地方交通事業を再建してきましたが、衰退産業を生き返らせるのは小手先ではなく抜本的な構造改善をしないと生き残らないでしょう。現状の80%以上の赤字産業は金融庁が分析すれば「業界として破綻先」であり、総理主導の国を挙げて地方交通の実務の分かった産学官のプロによる上記3施策による構造改善を提案します。
地方創生の要は、生活交通の維持です。
* 官庁速報(iJAMP)参考
◎バス新規参入に自治体意見=交通維持へ地域の声反映―国交省
20/01/06 07:30 KP04国土交通省は、地方自治体が地域公共交通の維持に向け具体的な計画を策定してい
る区域で、路線バスの新規参入申請が行われた場合、自治体から地方運輸局に意見を
提出できる仕組みを創設する方針を固めた。交通維持に向け、地域の声を反映できる
ようにする狙い。2020年の通常国会に提出する地域公共交通活性化再生法と道路
運送法の改正案に反映させる。地域の関係者との協議などを経て地域交通の維持を目指す自治体にとっては、新た
な事業者の参入があると取り組みの方向性に影響が生じる可能性がある。ただ、現状
は、申請を受ける運輸局から参入に関する動きを知らせたり、自治体側から意見を伝
えたりする仕組みは設けられていない。国交省は法改正で、既存路線の変更など具体的な交通関係の対応策を盛り込む「地
域公共交通再編実施計画」を「地域公共交通利便増進実施計画」に衣替えする予定。
これと併せて、自治体側が速やかに新規参入に関する情報を把握できる仕組みを整え
る。具体的には、計画の区域で新たな路線バスの事業許可申請があった場合、その旨
を自治体に通知する方針だ。
国交省はこれに加え、通知を受けた自治体が、新規参入に関する意見を運輸局に提
出できる制度も設ける。意見提出に当たっては、計画に位置付けられた既存事業者の
経営や利用者数などの点について、新規参入によって受ける影響を定量的に示しても
らうことを想定している。また、国交省は、意見提出に先立ち関係者による十分な話
し合いを促すため、自治体が協議を実施する場合の応諾義務を事業者側に課す方針
だ。
道路運送法では、国は路線バスの新規参入申請に当たり、「(対象区域の)計画維
持が困難となるため、公衆の利便が著しく阻害される恐れがないか」を審査すること
としているが、審査基準は明確になっていない。国交省は地域の意見を反映する仕組
みの導入を通じ、より実効的な許認可の判断につなげる考えだ。(了)
(2020年1月6日/官庁速報)