両備グループ
代表兼CEO 小嶋光信
この11月に岡山市地域公共交通網形成協議会の第5回が開かれ、交通網形成計画のたたき台として
1.岡山市の路線バスの全体の収支率が84%で、市内193系統中81%の156系統が赤字で、赤字総額が7億円である。
2.収支率80%未満の赤字路線が廃止となれば、交通不便者数は全年齢で1.4倍の27万人に、高齢者は5.4万人が7.2万人に達する。
と初めて岡山市の公共交通網維持の問題点が把握され、「対策は待ったなし!!」と表明された。
やっとここまで来たかと感無量だ。思えば2018年2月に『美味しい』路線だけを狙ったクリームスキミング的参入に対して、これを許せば日本の地域公共交通の維持に甚大な弊害が生ずる前例になると考え両備バスと岡電バスの「31の赤字路線の廃止届出」で国に問題提起した。
同月に国土交通大臣が定例記者会見で、安倍総理が衆議院予算委員会で「少子高齢化社会では地方において競争と路線維持は両立しないと理解した」とわざわざ「両備HDの小嶋さん」と名前まで上げてくれて、地方生活路線の問題が国として重要な問題と捉えていただけた。
この結果、国交省に「地域交通イノベーション・フォローアップ検討会」が開かれるようになり、また地域交通の問題は国交省の問題にとらわれず広く国の地方の在り方の問題と提案したところ内閣府の「未来投資会議」でも地域交通の問題が取り上げられるようになった。
岡山市には、20年来法定協議会を開くように両備グループもまた岡山県バス協会も申し入れ続け、20年もかかってようやく「地域交通の維持が緊急の課題」と認めていただいた。
言いたいことは千ほどあるが、それよりも遅まきながら地域に交通網がサステナブルに残るように国も岡山市も舵を切ったことを評価したい。
そして、岡山市が地域公共交通の現状を理解してくれなかったので、全国の破綻した交通網の再建に尽力して地域公共交通の活性化及び再生に関する法律や交通政策基本法に尽力してきた両備グループとしては、せっかく交通網形成計画を岡山市が創るなら、全国の先進事例としてお役に立つように協力したいと思っている。
第5回では、今までの議論をふまえた岡山市交通網形成計画のたたき台が示されたので下記のように意見を申し上げた。
1.上位計画の岡山市総合交通計画の基本方向とコンセプト、それらを踏まえた4つの目標をあげ、公共交通を軸に交通ネットワークを形成していくことを明示した方がよい。
2.岡山市はハブ&スポークの中心であり、路線再編などでは、近隣市町への影響に配慮すべきである。
3.岡山市の中心部の運賃は、政令市の中でも極めて安くなっている。深刻な運転手不足は、低運賃での賃金低下によるのが原因であり、これを改善し、夢のある労働環境をつくる必要がある。2000年、2002年の規制緩和で乗務担当社員の給料は他産業より年収ベースで100万円程度下がっており、運転手不足の要因になっている。
4. 広島市と同じ180円にすれば、岡山市内のほとんどが均一運賃でカバー出来る。「歩いて楽しい」市内中心部にするには市内を低運賃にするのではなく、例えば180円で近場は歩いていただくようにしなければ市内中心部の活性化にはならない。ご高齢者や障害者のみなさんには乗りやすいように大幅な割引をすれば良い。
5.市民、ご利用者の願いは現状の路線維持であるが、今後は収益が悪化することによる減便ということもあり、また運転手不足で運行できなくなることが現実に起こる。
6.岡南でのスムーズな乗り継ぎは大変重要であるが、速達性は犠牲にできないため、岡電・両備で研究している。一つの対策として、運転手が乗り継ぎ拠点で入れ替わることが可能とならないか、検討してもらいたい。
7. 交通混雑の解消にはバスレーンやボトルネック交差点の改良やPTPSの拡充なども必要だが、費用も掛からずすぐできる対策としてマイカーとの共生を図り、1人乗りのマイカーに対して、流入規制等を検討してもらいたい。この施策で混雑時70分以上かかる西大寺線の岡山市内中心部までが、ほぼ定時性を確保できる。
8.西大寺線の渋滞が深刻であり、東山でのバスと路面電車のシームレスな乗り継ぎについて検討してもらいたい。この施策も一銭のコストもかからず、決めればすぐに10分は市内中心部に時間短縮できる。
9.高齢者等の運賃割引は重要であるが、さらに通学定期の無料化まで踏み込めば先進国と肩を並べることができる。
10.再編の効果を年間1.07億円と市は見込んでいるが、計算根拠に誤りがあり、例えば日中の減便を朝に振替るには新たなバスと運転手が必要でコストアップになり、お客様の利便減少などを加味しない粗い最大限の効果を見込んでも5再編案で32百万円にしかならず、今回は記載しない方が良いのではないか。(西大寺の市の提案は33百万円のコストアップで加味せず)
11.再編案はなんとか実現したいと思い、色々と分析をしているところであり、市から提案のあった岡山駅西口の循環線の運行について準備を進めている。今後もできるところからやっていきたい。
12.持続可能な経営形態として交通連合も必要と考えており、将来に向けて築いていきたい。
両備グループでは、既に来るべき交通連合に向けて両備バスの市内線は岡電バスに譲渡して、両備バスは郊外線、岡電は市内線と仕訳をはっきりさせている。また50年戦争といわれた中鉄バスの路線争奪戦も規制緩和で激しさを増し、ついに岡山市内に中鉄バスが参入し泥沼化したが、思ったようなお客様が市内中心部になく中鉄バスは更に赤字の増大で窮地となり、2007年に私と当時の中鉄バス藤田正蔵社長の話し合いで共同運行をすることで大きな問題は解消した。実質の交通連合は現在でも80%は完成しているといえる。どうしても仲間に入らないバス会社や思惑の異なるバス会社などの1~2社の調整は必要だが、実質岡山市の問題はあらかた片付いていたといえるところに更に思惑の異なるプレーヤーを増やしてしまったということだ。
両備グループの岡山市交通網形成計画に対するスタンスは、従前より一緒であり、「市民に寄り添う交通網」の構築だ。従って、市民のためになる実現可能なプランは積極的に行なうが、両備、岡電以外の他社との競合路線は、テーブルにつかない会社もあり、また路線が全く同一でなく、効果も思ったほどでないので難しいだろう。
また西大寺線は朝の増回でコストアップになり、問題はプレーヤーを供給過剰の路線に増やしてしまったという別のところにある。この路線は前述の一人乗りマイカー規制や東山での両備バスと岡電電車との乗り換えシームレス化(全国で初めての取り組みだろう)での定時性の確保が急務だろう。
またあまり効果の見込めない芳泉方面の再検討と、岡南方面は両備バスと岡電バスのバス停を共通化して、乗り換えのスムーズな確保と玉野市からの速達性を確保しつつ、便数の分かりやすさを作っていきたいと思う。
岡山市の交通網形成計画を成功させるには、今回の再編案のように岡山市が独自で考えるのではなく、行政と事業者が共にお客様の方に向かって協働して創りあげていくことが肝要だ。
とにかく岡山市が本格的に動き出したことは良いことであり、それぞれの再編案もさることながら、両備グループは将来に向けての交通連合化を進めていくために、着々と準備を進めている。独禁法の改正を待って将来に夢の持てる構想を発表したい。