行政には難しい地域交通のケーススタディー再編案づくり

両備グループ
代表兼CEO 小嶋光信

岡山市の第4回公共交通網形成会議がさる8月19日に行われ、「路線再編に関するケーススタディー」の第2弾が発表されました。
http://www.city.okayama.jp/toshi/gairokoutsuu/gairokoutsuu_00261.html

今までの公共交通の実務は、全国どこの地方自治体もそうですがほとんど全てを民間に任せてきたために、行政の皆さんは手探りで路線網を作らなければならないので、大変なご苦労だったと思います。

岡山市の場合は、交通網形成の会議の3回目から路線再編のケーススタディーに入るという異例な方式で、岡山市の協議会は交通網形成計画が国に認められたのちに再編実施計画という通常のステップを踏まず、一気に再編実施しようとするところが気にかかります。

本来、交通弱者に優しく「市民に寄り添う交通網」をどのように創り、まちづくりに活かしていくかが肝要であり、交通網形成会議でまず将来の地域の交通網の在り方を示すことが大事ですが、十分語りつくされていないうちに再編議論で参加の市民の皆さんもマニアックすぎて良く分からないと当惑気味で、議論がかみ合っていないという印象でした。

岡山市も民間のバス事業者に任せきったこと、一部のバス事業者は補助金をいただかないように頑張ったことで他都市と比べて赤字路線の廃止などで路線網も補助金も極めて少ないことが特徴です。

現状と問題点としては、
1.他の政令都市と比べてバス利用者が通勤・通学のわずか4%であり、交通網も約6割程度と極めて貧弱であること
2.岡山市民の2016年実施のアンケート調査で分かるように「現在の交通網を維持してください」という危機意識と要望が第一位と強いこと
3.市内中心部の他社の黒字線狙いの「良いとこどり低運賃競争」など目に余る過当競争がみられること
4.「良いとこどりの低運賃競争」で郊外へのネットワークが脅かされていること

お隣の広島市が180円の運賃に対して岡山市は初乗り100円運賃を仕掛けてくる事業者が複数存在し、その意図は本来の少子高齢化社会での路線維持に反して路線つぶしの様相を呈しています。これに複雑に行政が絡んでいるために素直に解決する状況にはないといえます。

今回のように市民に分かりづらい個々のケーススタディーは、これらの問題に答えていないので、「市民の路線を維持してほしい」という要望にまず応えるべきでしょう。今回の再編案はいかに路線の効率をあげるかに焦点が当たっていて、本来の「市民に寄り添う公共交通の在り方から逸脱しているのではと懸念しています。公共交通網の土台を作っていないのに母屋の修理を語るようなことであり、まず交通網計画をしっかりつくるべきではないでしょうか。

そもそも交通網計画を作るのは公共交通に対する明確な理念とビジョンが必要といえます。

例えば熊本市は、交通空白地帯を無くすという明確なビジョンがあり、 市民に寄り添う計画を実施しています。

熊本市の公共交通基本条例では、
1.マイカー時代と少子高齢化で交通事業者の経営悪化を招き、公共交通の廃止や減便というサービスの縮小で更に公共交通利用が縮小するという悪循環を引き起こしている。公共交通を基軸とした多核連携のまちづくりを推進する。
2.マイカーから公共交通利用への転換を進め、公共交通により円滑に移動することを可能にする社会の実現をする。
3.市民は日常生活と社会生活に「必要な移動(手段)をする権利を有する」との理念で、市民と事業者の参画と協働のもとに公共交通の維持と充実するための施策を総合的かつ計画的に推進するために条例を制定する。

と明確に規定しています。

具体的には、
公共交通空白地域(1キロメーター以上停留所がない)
公共交通不便地域(500メーター以内に停留所がない)
公共交通純不便地域(上記以外で地形や地域特性で公共交通利用が不便)
解消をうたっています。

本来「市民とまちづくりに寄り添った交通網計画」を創り、交通事業者の信頼関係をまず造り上げ、市民との協力体制を作ってから今回のようなケーススタディーを示していけば混乱は少なく、結果として早くできるのではと思います。

個々の個別の問題整理の前に独禁法の改正などで如何に「交通連合」を創り、バス事業者が独立し安定した経営を前提に、個々の事情ではなく一元的に管理される仕組みづくりで市民の要望に寄り添った路線の再編、空白地帯の解消に努力し、サステナブルな地域構築の維持発展を望むことが大事だと思います。

今回のケーススタディーの問題点は、
1.利用者に乗り継ぎや路線カット、バス停飛ばしや減便などを強いることになり、利用者利便が低下し、更なる利用者の減少を引き起こしかねないこと
2.原価計算に誤りがあり、試算に程遠い経済効果しか望めないこと
バス要覧のキロコストを掛けて削減額を算定していますが、昼間の減便をして朝の増便をうたっても、そもそも昼間削減してもバス台数も運転手も削減できず効果は燃料代くらいです。朝の増便には新たなるバスと乗務担当社員の増員が必要で、コスト削減どころかコストアップになります。
3.生み出された余力で路線網拡充するといいますが、80%前後の路線が赤字の路線バス事業者にそもそもこの程度の効果で余力は生まれないこと。
必要な路線は余力で考えるのでなく必要なら新設すべきです。

何故このような齟齬が生まれたかは、行政と事業者と市民の信頼関係とコンセンサス不足が原因です。コスト計算などはプロの世界で、事業者に算定させれば間違いは起こらなかったでしょう。バス路線の事情は各路線の利用者と市民に聞けば答えは明らかです。

個々のケースタディーの実現可能性評価は以下になります。

①岡南方面の再編

玉野方面からの速達性が失われる。・・・これにより乗客の不便さからの逸走を招く恐れがあり乗客もバス経営にも共にメリットなし。
・本来郊外線は乗り継ぎ地点までの郊外からの各駅停車、市内中心部へは急行便として多くの利用者の利用する天満屋、岡山駅にのみの停車で速達するのが常道。
・郊外バスを乗り継ぎ地点で折り返えし市内線に乗り換えを岡南では主張しながら、三野では郊外バスを乗り継ぎ地点である三野で折り返すのではなく、郊外線を市内線にして経路の違う岡電バスの市内線を廃止せよという一貫しない議論
・この乗り継ぎ地点は以前岡山市がパークアンドバスライドを行なっていたが、現在は立ち消えた場所でありパークアンドライドの施策との整合性はどうなるのか?
上記のように乗り継ぎの不便と、それによる利用者の減少がある上に、仮にその不便を見越して強行しても市の試算の2300万円の合理化にならず、なっても841万円のみで、それも顧客の不便による減少が上回り効果を出さないだろう。

②妹尾方面の再編

重井病院や駒形団地の利用者は、岡山駅以外からの乗降客が68%でJR利用で妹尾駅を交通結節点にすれば現在の岡山駅―火の見間から重井病院への通院利用者等は不便になり、顧客が減少するだけで効果は見込めない。
・妹尾駅~重井病院間は乗降客は見込まれず、岡山市にはまちづくりのプランがあるのか?利用にも不便、事業者も回送ロスが発生、共にメリット無しといえる。

③三野方面

・岡南での市の提案と真逆で、本来の郊外バスと市内バスの論理に矛盾
・そもそも宇野バスの路線と岡電バスの路線は番町から異なり、岡電バスはNTTや柳町一丁目などの乗降客が57%で、全く経路の違う路線をやめて一本化せよとは利用客無視の議論といえる。
榊原病院へのアクセス本数低下で通院の利用客は不便となる。
市はこの無理な経路の異なる路線を無理やり統合して39百万円節約になるというが、実際は12百万円のみで、それも57%の利用者が不便になりその減収で効果は出ないであろう。

④高屋方面

昼間を減らして朝晩を増やす議論自体がナンセンスだ。昼便を減らしても朝便には持って行けず、朝便を増やすためにはバスを増やさなければ出来ない議論で、コストアップと運転手不足で非現実
岡山駅を跨いでの利用客は10時以降においても60人は存在しており、全体の割合が少ないから回数を間引いても良いというのは利用者軽視の議論
この案も市は14百万円のコスト節約というが、お客さんの不便を強いてやっても2百万円程度の節約で、60名のお客様の減収3百万円が見込まれ、相殺され効果なしといえる。

⑤西大寺方面の再編

・そもそも供給が多く需要の少ない西大寺線に3割以上便数を増やす新規業者を認めて、昼便を減便せよとは全く理不尽な議論。本来供給過剰路線に新規を認めるべきでなく、新規の小型バス事業者には交通空白地帯や交通不便地帯に振り向けるべき
・昼間を減便しても朝便には回せずバスの増車が必要
そもそも西大寺線の問題は朝晩の渋滞であり、通常30~40分が特に朝は60~70分と倍近くの時間がかかることが問題点。朝の小型のバスは輸送力が無く渋滞の原因。本来「連接バス」など輸送力の大きなバスを朝晩の西大寺線に投入することが肝要
渋滞対策に一人乗り乗用車の抑制を図り、例えば偶数日は偶数ナンバーの二人以上のマイカーのみ、奇数日は奇数ナンバーとし、一人乗り乗用車を規制すれば大幅に渋滞緩和し、利用者も便利となりバス台数も節約できる
西大寺線の両備バスを東山でシームレスに路面電車に乗り換えできるようにして利用者の利便向上を図るべき
市のいう朝の増便はバス3台、3名の乗務担当社員が必要で3314万円のコストアップで、赤字増大で路線維持が出来なくなる

⑥芳泉方面の再編

朝晩の渋滞は藤田~大東間でこれより先のバス停を飛ばしても効果なし
青江北はイオンスタイル青江のお客様の停留所であり、岡南営業所は南高生の通学、清輝橋は大学病院の通院に必要なバス停でこれらを飛ばせとは全く利用客無視の議論

以上のように、経路の異なる路線の統合廃止、利用客無視のバス停飛ばし、バス便数飛ばしで昼間間引いて朝の回数増加という出来ないプランを示しても利用者とバス事業者の理解は得られず、進めても本来の網計画ではないでしょう。

赤字路線の維持や空白地帯、困難地帯をどのように少なくして生活を守る交通網を構築するかが大事な問題です。昼間浮かしてその余力を持っていくということは需要無き時間帯でのバス路線設定で、形だけで利用客無しの空白対策プランだといえるでしょう。

またバス会社は仮に余力がでても赤字解消にはならず、空白地帯に回す余裕などはありません

以上のように全く網形成計画の基本に適っておらず、本来の交通網形成の議論をすべきです。

それではどうやって地域の生活路線を守っていくかですが、答えは市民事業者の意見を反映した交通網形成計画を早く国に提出し、市民と事業者のコンセンサスづくりをし、各社の経営を尊重して「交通連合」を構築しサステナブルな地域公共交通の維持・発展を図るべきです。

これからの地域公共交通維持は単独の自治体だけで出来るものではなく、また交通網形成計画と再編実施計画にくわえて法改正と財源確保と国民あげての公共交通利用運動が必要で、下記の拙稿をご照覧ください。
https://git-web.com/ryobigr_2024/message/5442/
答えはそこにあります。

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