(一財)地域公共交通総合研究所 代表理事
小嶋光信
当総研の理事をお願いしている東京大学・政策研究大学院大学の家田仁教授が、5月20日に岡山で開催する理事会にご出席下さることになり、滅多にない機会でもあるので、急遽、特別講演会を企画した。
家田教授は国の交通政策審議会や社会資本整備審議会や国土審議会の委員をされており、「国土のグランドデザイン2050」やそのブロックごとの広域地方計画に深く携わられているので、最もホットな情報を聞くことができる。
総研としては、地域づくりに社会資本の整備と交通の両方の観点から総合的なオーソリティである家田教授へ設立時に理事就任をお願いした。まだ総研ができる前の海のものとも山のものとも分からない段階から二つ返事で「地域の公共交通のことをやるのなら協力しましょう」と仰ってくれて涙が出るほどうれしかった。また一昨年、交通政策基本法が衆議院の国土交通委員会で審議されるとき、私も家田さんと参考人として意見陳述をさせていただいたという関わりもある。
家田さんから講演をするにあたって、地域の実態や観光などに詳しい女性との対談も加えたいということで、直ぐに頭に浮かんだのは倉敷市長の伊東香織さんだ。とにかく、アクティブ、そして明るい、良いと思うことはどんどん進める素晴らしい首長で、また安倍首相直轄の「まち・ひと・しごと創生会議」へ行政から参画しているただ一人のメンバーでもある適任者だ。
家田教授は、コンパクトとネットワークを分かりやすく『「まとまり」と「つながり」の地域創生を考える~特に中心市街地と地域公共交通に着目して~』という演題でこれからの問題を語ってくれた。
私は今、総研で自治体や企業からの依頼を受託して多くの鉄道・バス・航路などの地域公共交通の具体的な解決策を提案しているが、関係する自治体の首長は異口同音に「少子高齢化で地域公共交通の乗客がどんどん減り、そのために補助金は毎年増え続けている。一体いつまで続くのか?」と慨嘆されているケースが多い。少子高齢化の上に、少ない若者たちが就学や就職で郷里を離れて大都会へ出て行ってしまい、少子化率以上に若者たちが流出している。全く出口の見えない状況に、「国土のグランドデザイン2050」が策定され、現在、広域のブロックごとに広域地方計画が起案されている。
どちらかというと、収縮し、自治体が過疎化していく中で、地域の核になる都市に集約し、まとまって行政機能を発揮し、市民生活を維持しようということで、その「まとまり」を「つながり」で多様性を維持していこうという戦略と取れる。
さて、本当に負け戦を生き残るための消極的戦略かと思う節が強いが、明治維新以後の行政単位の変遷を考えてみると、そこに光を見出すことができる。
薩長土肥の4藩による維新によって、徳川300藩が敗れ明治政府が誕生したが、列強に対抗するために強い中央集権で「富国強兵・殖産興業」を目指した。徳川幕府がわずか4藩に敗れた教訓から、地方が再び力をつけないためにも明治政府では各藩を解体し、約7万以上という市町村に大分割し、お目付け役に県令を置いたことに現在の地方自治体が始まる。しかし、7万以上の市町村は余りに多いということで、明治の大合併で15,859になり、終戦時が10,520、平成の大合併で1,718(平成26年4月現在)になったが、それでも交通や情報が不便な江戸時代と比較して5~6倍の基礎自治体数になっている。明治政府が考えた地方に力を持たせない政策が今頃効きすぎたと言える。詳しくは拙稿の「日本再生と地方創生の7つの処方箋」を参照いただきたい。
*両備グループ 小嶋光信代表メッセージ*
「日本再生と地方創生の7つの処方箋 -日本の経営、地方の経営がキーワード-」
経営の観点からいうと、一つの地域が幾つかのパーツに分けられて、自立した経営体を維持するには力不足で、細かに分割されすぎたと言える。
実は昔の藩の大きさに徐々に戻っていると言え、地方消滅云々と言うが、悲観主義に陥るよりは早く昔並みの広域な自治体になって攻めの地域経営をすることが大事と言える。
広域連携や広域地方など色々な呼び方があるが、私は昔の藩制度に近い行政数への「グレーターシティ構想」と言っている。弱り切って合併するのではなく、早く政令市単位まで創ることが賢明だと思っている。道州制は結果二重行政になるので、国とグレーターシティ(政令市)がすっきりした枠組みだ。
今回の講演と対談で、都市の集積が進めば進むほどマイカー依存から公共交通依存へ進化していくことも示された。
これから「まとまり」と「つながり」のキャスティングボードを担うのが公共交通の使命だと思って、更に地域公共交通を元気にしていきたい。