両備グループ代表 兼CEO
小嶋光信
両備グループへの入社を心から歓迎致します。
入社式では、何となく落ち着かず、何となく地に足がつかず、今日からどんな社会人生活が待っているのか期待と不安が入り混じったような複雑な気持ちだと思います。
私も当時、同じような気持ちで入社式に臨んだことが昨日のように思い出されますが、その時誓ったことは、「自分に負けず、自分に勝つ!」「社会のお役に立てる人間に成長する」でした。
大事なことは、これからは親元から巣立ちして、社会人として自主自立した人生を歩むということです。
猫も働く両備グループ
「社会人とは」というと、「社会で働く人」という意味で分かったような気がしますが、実はこの言葉は日本にしかなく、英語では「worker = 労働者」や「adult = 成人」や「citizen = 市民」という表現になります。
人間では分かりづらいのですが、「どうして子猫が親猫になるか」を見れば、その本質がすぐに分かります。
親猫は、子猫を可愛がって手塩にかけて守り、育ててくれますが、1年も経たないうちに鬼のようになって咬んだり蹴ったりして子猫を追い出します。追い出された子猫は親猫を慕って傍に戻ろうとしますが、親猫はさらに激しく追い出します。ついに親猫に嫌われたとトボトボと去って行って、お腹が空いて、お腹が空いて死にそうになって自ら餌を取った時に初めて親猫になるのです。
一生、自分から餌を取らず与えてもらう飼い猫は、一生、親猫にはならないそうです。
自ら稼いで自分の生活を支えることが親猫、即ち社会人になったということです。
人間は、ただ自分で食べていくだけでは社会人とは言えないでしょう。その答えは「ハタラク」という言葉にあると思うのです。ハタラクは、人偏に動くと書きますが、人が動いただけではハタラクことにはなりません。ハタラクとは「端を楽にする」という意味で、自分のために働くだけではありません。自らが働いて社会の役に立ち、お客様のためになり、会社の仲間たちのためになることが大事で、その結果として自分自身のためにもなるのです。
両備グループでは、和歌山電鐵の三毛猫「たま駅長」まで働いていますから、我々社員もウカウカしてはいられません。
両備の事業コア
両備グループの3つの事業コアは、運輸交通観光関連部門、情報関連部門、生活関連部門で、その共通点は、労働集約産業です。何か時代遅れのような響きがありますが、とんでもありません。言い換えると「人間にしかできない仕事をしている」のです。これからは、どんどんロボットも社会進出してきますが、このロボットにできない仕事がお客様へのサービスであり、ソリューションであり、イノベーションです。ロボットはお客様の期待を察したり、思いやりのお返しはできません。お客様がお困りなら、どうしてあげたら喜ばれるのかを両備グループ8,700人超の社員が一丸になって考える…すると、日本一素晴らしい企業グループになります。思いやりの心がCSを磨くのです。そして、お客様がそれを認めてくださったら、付加価値が生まれるのです。
両備グループは、基本的に長期雇用で働く皆さんの生活設計が出来るように心がけていますから、「不易流行」で、流行りものの事業にあまりスタンスはおかず、社会性の高い、市民の暮らしに直結した長期的な産業にシフトしています。
退職率が低いことが強み
両備グループは最近、全国でも新入社員の「退職率が低くて素晴らしい」と誉めていただけるようになりました。以前は、両備グループでも新入社員の退職率が高くて困っていたのですが、皆さんにこの入社式で私との3つのコミットメント=約束を守ってくださいと言うようにしたら、退職者が減り、全国にも誇れる定着率になってきました。
3つの約束
第一の約束は、「思いやりをもつ」ということです。
私は皆さんに「忠恕=真心からの思いやり」の心が持てそうもなかったら、両備グループを希望しない方が良いですよとはっきり申し上げていますし、最近では就業規則にも盛り込まれて、理念だけでなく、雇用上の約束という強いものになっています。
「思いやりとは相手の立場で考えること」…忠恕という理念は、私が10数年前、両備グループの代表になった時に、あまりに企業理念が幹部・社員に浸透していないので、何とか一言で言い表せる言葉はないかと考えあぐねていた時に、頭に閃いた二文字でした。この言葉を調べてみると、両備グループの創立者である松田与三郎翁の戒名の一部でした。その戒名は、お坊さんではなく与三郎翁が自ら思いを込めて創られたもので、「天海院忠恕一貫居士」と言います。平たく読めば、「空よりも高く、海よりも深く真心からの思いやりを一生貫いた男です」との意で、まさに両備グループの理念をダビンチコードのように刷り込んであったのです。
実は、両備グループが100年以上に亘り、今のように成長できたのも、忠恕の心で、社員を逞しく育てて、決して安易にリストラしなかったからなのです。つまり、人材が余った時、他社では大抵リストラされますが、両備グループでは100年以上、余剰人材を適材適所で活用するよう図ってきたため、不況の時に大きくなったのです。両備グループが、運輸・観光関連のコア、情報関連のコアと生活関連のコアという3つの事業コアを有する計49社、約8,700人を超える企業グループに成長したのは、まさに忠恕の発揮だったのです。
今年は経営方針を「右手に忠恕、左手に算盤」と示しています。思いやりの心でまず考えて、その上でしっかり算盤を弾いてくださいということです。もう算盤を使っている人は少ないですが、電卓では考えずに弾いてしまって、相手の気持ちを察する数字が活きていないのです。思いやりの心で、相手の立場を考えて、双方がウインウインとなるように数字を弾くことが大事なのです。儲かるという字は、人偏で切れば諸人、信で切れば信者で、諸人が信じてくれるから利益が生まれるのです。
まず、お客様からの信頼と信用が利益の源なのです。
第二の約束は、「3年の我慢」です。
「桃栗三年、柿八年」、また、「石の上にも三年」と言うように、初心を忘れず、色々なことがあっても3年は辛抱してください。
一般的に、入社後2〜3年間で30〜40%も離職する原因は、
- 些細なことで叱られた。
- 思ったような仕事でなく、やる気を失った。
- 上司や同僚と良い人間関係が結べない。
ということのようです。
不安もあるし、失敗して叱られることもあるでしょうが、3年は叱られることが仕事だと思ってください。五日市剛さんという詩人が、「失敗と書いて経験と読む」と言っていますが、まさにその通りです。失敗して叱られたら、「有難うございました」と言える逞しさを持ってください。そこから本当の仕事が見えるのです。その前に辞めてしまうと、人生はいつもリセットで、いつも逆戻りで進歩がなくなります。
仕事は単純なことから学びますが、基本は仕事の土台で、単純な基本の仕事をしっかり身につけてもらわなくてはなりません。
職場の人間関係を築くためには、まず挨拶ですが、この挨拶という字に答えが込められています。挨拶とは、心を開くという意味で、まず自分から心を開いて飛び込まねば、挨拶になりません。心構えさえしっかりしていたら、仕事は楽しいものです。
両備グループの場合は、これから一年間、皆さん方のお兄さん、お姉さん的な先輩が指導員として、日々サポートしてくれます。皆さんも仕事や環境が変わって悩むことがあるでしょうが、それを親身に聞いてくれますので、何でも隠し事をせずに相談してください。必ず皆さんに正しい方向と対処の仕方を教えてくれるでしょう。
第三の約束は、「ご両親やご家族、先生方への感謝の念の発揮」です。
まず皆さんに思いやりを実践していただきたいことは、皆さんをここまで育ててくださったご両親やご家族、先生方にお礼を言って欲しいということです。帰ってから、また電話でもメールでも結構ですから「今日までありがとうございました。これから社会人として頑張ってやっていきますから、安心してください」と感謝の気持ちを伝えていただきたいのです。両備グループでは、まず「良き社員」の前に、「良き息子」であり「良き娘」であって欲しいと思います。お世話になった両親にお礼の言葉が言えなければ、見も知らぬお客様に思いやりの気持ちなど持てるはずがありません。
新入社員がしくじらない三原則
今日は皆さんに新生活へのプレゼントとして「しくじらない三原則」を伝授しておこうと思います。
それは、
- メモを取る
- すぐやる
- ホウレンソウの実行
の3つです。
多くのしくじりは、よく聞かず、メモも取らず、すぐにやらずにいることが原因で叱られるような失敗につながるのです。
そして、仕事は報告・連絡・相談という「報連相(ホウレンソウ)」を必ず実行すれば失敗をすることが少なくなる以上に、成果が上がります。
両備グループの理念と経営方針
両備グループは「忠恕=真心からの思いやり」を経営理念に、社会への思いやりとして「社会正義」、お客様への思いやりとして「お客様第一」、社員への思いやりとして「社員の幸せ」を経営方針に日々、企業活動をしています。
社会のお役に立つこと、忠恕の発揮としての具体例では、地域公共交通の再生とその関連の法整備への努力があります。規制緩和によって地方鉄道、路線バスの多くが破綻し、縮小されて、このままでは地域で交通難民が生まれる懸念や、人口の離散とともに地域の衰亡化の懸念が生じています。
その解決のために、津エアポートラインでの公設民営の実証実験に始まって、和歌山電鐵、中国バス、井笠バスカンパニーなどの再生・再建を通じて、「地域公共交通活性化及び再生に関する法律」の制定や交通基本法から「交通政策基本法」の成立にも関わり、全国の地域公共交通が国・都府県・市町村で計画的に、且つ、事業運営が地域問題として図られる道筋をつけることができました。
全国的な問題に一企業が大きく関わって、その努力によって解決へと向かうことは稀有なことですが、、まさに両備グループの経営理念と行動規範である「知行合一」、即ち「良いと思うことは必ず実行する」、「すぐやる!必ずやる!出来るまでやる!」の成果だと思っています。
行動規範
企業には珍しい行動規範が両備グループにはあります。それは「知行合一」です。「良いと思うことは必ず実行しよう」という陽明学の大事な言葉です。これから社会で多くの事柄を学んでも、実際に実行しなければ、学ばぬことよりもっと悪いということです。
この経営理念と行動規範が、他社ができない困難を乗り越え、数々の企業再生や資本提携、業務提携へと結びついているのです。
経営テーマ
事業を進めていくためには時代、時代で経営テーマが必要です。両備グループは「忠恕=真心からの思いやり」を経営理念に、「社会にお役に立つ仕事」を事業の方向性としています。そして、経営テーマは、「安全、安心、エコで健康」で、現状の事業の再編成と活性化を行っています。特に全ての事業に於いて安全を最優先にしていますので、最近は「ご安全に!」が両備グループの合言葉です。
両備グループは、この経営理念と経営方針、経営テーマに沿って、社会や地域の問題解決を図る提案型企業として成長していっているのです。
街は青春花盛りと、花が咲いただけでなく、次代の沢山の実をつけはじめています。
すぐやるスピードが両備の戦略
スピードを身につけた両備グループは、東南アジアで、日本でこんな意志決定の速い会社があるのかと言っていただいて、仕事がバリバリ広がっています。「すぐやる!必ずやる!出来るまでやる!」が21世紀の仕事の合い言葉です。
成功の秘訣は「すぐやる!必ずやる!出来るまでやる!」であり、また反対にすぐやらないことが大失敗の原因になっているケースが多いのです。
両備の経営の特色
両備グループの伝統でもあり個性でもある信託経営や、労使強存共栄の思想と、新しく構築してきた能力主義的安心雇用とグループの各種委員会やグループ監査本部などの経営システムの整備で着々と大手に負けない企業体質を作り上げていっています。
今年は、3年間の教育で総合職を磨き上げ、3月31日で過去の全ての役職を返上してもらって、今日から新しい役職で意識改革した再出発をします。この思い切った変革が両備グループの真骨頂です。
そして誠実にコツコツ頑張る社風が困難な状況でもしっかりした業績をあげられていると思います。法政大学大学院 中小企業研究所 特任研究員の藤井正隆さんの『ウサギとカメの経営法則』という著書で、日本を元気にしてくれる18の会社に両備ホ-ルディングスが選ばれましたが、その紹介がふるっています。「思い切って任せるとネコも働く」と評して、両備グループの信託経営を紹介してくれています。
今日ここに皆さんを祝って集まってくれているグループ各社、各カンパニーのCOOの皆さんに、経営の執行を全面的に任せて、全社独立採算で自立しているから、全ての会社が黒字です。それぞれの企業とのグループシナジーの発揮が、逞しい成長を実現しているのです。
企業即教育体
両備グループは教育産業かと言われるくらい、色々な教育をやっています。両備教育センターと両備健康づくりセンターを中心に各社の専門教育で、人間として、社会人として、専門性のある社員として教育していきます。新入社員教育から先輩が指導員としてついてくれ、仕事のみならず人生まで同じ目線で相談にのってくれます。そして、やる気のある30歳までの社員教育としてのアンダー30、コーポレートユニバーシティーとしての経営管理基礎講座(両備大学)、両備大学院としての青年重役制度とこれだけの教育システムは大手でも稀でしょう。創立100周年を記念して、地域の人材育成の一助となればと両備大学を一部無料開放していますが、今後はこの公開講座を増やしていきます。
夢は行動すれば実現する
両備グループは、会社が儲けることだけが目標ではなく、収益をあげていくことは手段です。目的は社会のため、お客様のための仕事を通じて、社員の皆さんが幸せになることなのです。
両備グループには、「社員の業績=健康×能力×やる気=社員の幸せ」という「社員能力UPの方程式」があります。今春卒業した第54期のJB(両備青年重役会)は社員のアンケート調査などを通じて、この方程式が正しかったという分析をしてくれましたが、更にこれに社員の「夢」を加えると、より一層、能力ややる気が高まると提言してくれました。大変素晴らしい提言だと思います。
夢は目標であり、方向性であり、意識なのです。昔から「心ここに在らざれば、視れども見えず、聴けども聞こえず、食らえどもその味を知らず」と言います。夢や目標がない人にはチャンスが見えないのです。
たま駅長はどうして生まれたか?
両備グループの文化性の殿堂でもある夢二郷土美術館の館長も兼任していますが、その主な仕事は夢二芸術の普及で、5年刻みの美術展のテーマを考えることです。夢二生誕120年には「二つの故郷」をテーマに群馬県伊香保の竹久夢二伊香保記念館とコラボして高島屋各店で展覧会を開催しましたが、夢二ファンも高齢化で、孫やひ孫の時代になり、風化させてはいけないので子供たちに興味を持ってもらおうと「夢二の猫」を通して夢二芸術を理解してもらうことにしたのです。
私の家には物心がついた時から犬がいて、最近は三代にわたって真っ白な紀州犬です。それも猫は眼中なしのバリバリの犬派でした。当時はコマーシャルでも犬全盛の時代で、猫は「恩を知らない」、「自分勝手」、「家について人になつかない」など悪口雑言でしたが、余りに夢二の猫の描写が可愛く、愉快だったので犬派の私も敢えて夢二の猫を前面に出しました。夢二の猫を通じて犬派の私も、犬猫派に変わったのです。
そして、その2年後、再生を引き受けた新生・和歌山電鐵の初日のセレモニーで、小山商店の小山さんから「住処がなくなった私の猫を貴志駅に住まわせて!」と懇願されたのです。両備は忠恕ですから、この無理なお願いを何とかしてあげようと思い、三毛猫のたまを見に行って、目が合った瞬間に「この子は貴志駅の駅長だ!」と閃いたのです。もし私が夢二の猫で猫好きになっておらず犬派のままなら、きっと猫に興味を感じて、たまに会いには行かなかったと思います。
本来は、たまの住処を作ってあげるために、たまを駅長に任命したのですが、思いがけず、たま駅長は翌日から小さな駅長帽をかぶって改札台に乗って朝から晩まで働いたのです。その様子がマスコミやインターネットで日本全国のみならず世界中へと配信されたのです。たま駅長の経済効果は11億円とも言われ、市民団体や社員の努力、新しい電車の企画や催事などと相まって、和歌山電鐵は一躍人気スポットとなり、和歌山電鐵再建の基盤ができました。たまを助けてあげようと思ったことが、かえって助けられたのです。このような、思わざる幸運を「セレンディピティ」と言います。
セレンディピティとは?
「セレンディップの3人の王子」という童話があります。スリランカ(昔のセイロン)で旅をしている間に、意外な出来事に遭遇しても、自らの聡明さと閃きで対処して次から次へと幸運に恵まれるお話です。そこから、思わざる幸運を掴むことを「セレンディピティ」と言うようになりました。
実は、思わざる幸運はみんな、同じように目の前を通り過ぎているのです。それを見つけて掴んだ人間が夢を実現するのです。そして、その目の前を通り過ぎていく幸運が見えるか見えないかは、しっかりした夢や目標を持っているかどうかで、それに向かって行動している人間にだけ感じ、見えるのです。
よく、上手くいっている人を見て「あの人は運が良かったから」「私は運が悪かった…」で済ませてしまう人がいますが、その人は夢に向けた心がなく、行動もしていないからセレンディピティが見えず掴めないのです。夢を持ち、夢に向かって行動すれば、夢は実現するのです。
NHKの朝ドラで人気だった「マッサン」の奥さんのエリーさんが「人生はチャレンジとアドベンチャーだ」と言っていますが、まさに夢に向かっての挑戦であり冒険です。人生の夢を持って行動し、夢を実現してください。幸せな人生は自らの努力で掴み取る逞しい人財に育ってください。
両備グループは、皆さんが夢を持ち、セレンディピティを掴めるように応援します。
両備グループ
両備ホールディングス