井笠バスカンパニー社長
小嶋光信
第2回目の井笠地区バスまつりが天気にも恵まれ開催された。
思えば平成24年10月12日、突然の井笠鉄道の破綻で、わずか19日で同社の全路線の営業を停止するという前代未聞の事件が起こった。法律では路線廃止届は6ヵ月前までに申請と決まっているが、潰れる会社が6ヵ月前にわざわざ予告するはずもない。
私もビックリしたが、地域の行政はもっと深刻だった。すぐに行政の問題解決の連絡協議会が結成され、事態の把握が行なわれ、中国バスが一部並行路線を分担していたので、私共が再生した中国バスに白羽の矢がたった。
運輸行政に詳しくない方には、何故中国バスが選ばれたかと不思議に思う方、中には両備バスがやっていると勘違いしている方もおられるが、並行路線のバス会社に救援の依頼という当然の選択が、公式な議論として行政の協議会で行なわれたにすぎない。その結果、岡山県と広島県と関係の行政を代表して笠岡市長の三島さんが私のところに救援の要請に来られたのである。
この件で初めて三島市長にお目にかかった。
現行法では救済が困難な事態の打開が出来るのは、和歌山電鐵や中国バスの再生を成功させ、地域公共交通活性化法などを手がけた私の実績が買われたことも事実だ。
協議会では三島市長がリーダーとして、公設民託を理解し、短い期間に正しい手続きでオープンに結論をまとめられたのには、正直感服した。
一部密室云々を言う無責任な意見もあると聞いたが、自らの不勉強を晒しているようなものだ。
今回の本当にたった19日しかない問題解決期間で、地域の方の足を何としても守らなければと、必死な行政と、我々事業者との努力で同志的結合が生まれ、一日も運休することなく奇跡としか思えない路線維持が達成出来た。
地方には人材がいないと中央で陰口があるのも承知しているが、実際にこの活動を通じて地域の人材で十分地域は守れると確信した。
路線が一部併行していたということもさることながら、法的に救済できないこの事態を解決できるのは、数々の再生の経験がある両備グループしかないという国の判断も大きかったと思う。
もちろん選ばれても、地域の方への説明責任があり、笠岡市議会で全議員の前で説明し、私の経験からの発案で、この路線を守るには「公設民託」でしか維持はできないとの提案を皆様にご理解いただけたことは嬉しかったし、地域の力添えを感じた。
当初、全てが赤字路線の井笠鉄道の再生は誰も出来ないと思われたし、中国バスの幹部も共倒れを恐れて引き受けることに反対だったが、この状況で火中の栗を拾わなければ、全国の地域公共交通を救う交通政策基本法の成立は不可能だったので、両備グループの幹部に至るまでが私のその思いを理解してくれ、蛮勇を奮ったということが真実だ。
喉元過ぎれば何とやらで、現在は当たり前のようにバスが毎日走っていると思われるが、今日、地区の会長から路線維持の労を労って下さる言葉をいただいて、あえて火中の栗を拾ったことは間違いない判断で本当に良かったと改めて思った。
開会にあたって笠岡西中学校吹奏楽部の皆さんの演奏は素晴らしかった。この若者たちやご高齢者の住みやすい地域を創るために実は公共交通の維持発展を図っていると言える。
今年は子ども達の好きな絵本、漫画を2千冊以上集めた趣向と、「笠岡いいとこめぐり」の1Dayチケットで、竹喬美術館やカブトガニ博物館、道の駅ベイファームにも巡っていただきたいと思っている。
井笠地域の状況は、少子高齢化社会の進行で特に団塊世代の通勤定期の落ち込みがあり、5%ぐらいの顧客の減少に見舞われている。いくら「公設民託」でも、行政の負担が増えては長持ちしないので、両備グループあげて地域創生のプロジェクトを結成し、両備ワッショイ創生1%クラブの地方創生資金と、両備ワッショイサポート部の人材の支援も加えて、地域活性化と利用客の増加を図る所存だ。
この井笠地区の事例を、全国の同じような公共交通でお困りの地域の問題解決の好事例にするために、地域公共交通総合研究所もシンクタンクとして名古屋大学の加藤先生と研究員で応援をする予定だ。
少子高齢化社会と地域の衰退の中で如何にすれば利用客を増やし地域を元気にできるか。
井笠バスカンパニーの実証を通じて、全国のお困りの地域にいささかでも前途の明るさを築きたい。