竹久夢二学会顧問
夢二郷土美術館 館長
小嶋光信
竹久夢二生誕130年を記念して、昨年、京都・岡山・日本橋・横浜の高島屋4会場で「竹久夢二展~ベル・エポックを生きた夢二とロートレック」を開催したが、その企画でお世話になった帝京大学の岡部昌幸先生が、竹久夢二学会を創ろう!と提唱され、地元である岡山大学の鐸木道剛先生も加わってくださり、昨年9月27日に当学会は発足した。そしてその事務局のお手伝いを夢二郷土美術館がすることになった。
昨年は、群馬にある竹久夢二伊香保記念館を訪ねる伊香保研修会を行ない、両備グループのニッコー観光バスに所属する水戸岡デザインによる「夢二バス」で運行し華を添えた。
今回は第2回総会として、竹久夢二の生誕地・岡山にある岡山大学文学部の教室で11月7日に開催した。
その理事会・総会で、今後の組織運営や組織体制の構築とともに、来年3月に夢二学会としての国際シンポジウムを岡山市で開催することが決定した。また学会誌の発刊に向けて準備を始めることにもなった。研究の方向性も、夢二のマルチアーティストとしての多彩性に相応しい絵画・文学・デザインなどの三分野を融合する研究が必要との認識に基づいて、今後の学会メンバーの広がりを創っていこうということになった。
総会後には第1回目となる研究発表もあり、「『車塵集』を画賛に用いた肉筆作品について-《トランプをする娘》を中心に-」と題して夢二郷土美術館の子川さつき学芸員が発表した。
昭和6~7年の訪米に夢二が持って行った書籍4冊のうちの1冊が『車塵集 支那歴朝名媛詩鈔』であり、その本の中の漢詩が夢二作品の『トランプをする娘』の画賛に使われている。『車塵集』を翻訳した佐藤春夫は、和歌山県出身で慶應義塾大学文学部中退とのことで、たま駅長の和歌山県と私の母校である慶應と二重のご縁があり、この発表に大いに親しみを感じた。明治・大正・昭和という日本の激動期に生きた彼は、俗に門弟3,000人とも言われる巨匠だが、自分はただの「支那趣味愛好者ぐらゐ」と謙遜していたという。多くの文学者に慕われ影響を与えたが、一面白黒をハッキリさせる性格で敵を作ったとも言われている。
この『車塵集』の漢詩を画賛に使った夢二作品は未確認1点を加え現在9点あるが、子川さんは、その中の夢二郷土美術館蔵の『トランプをする娘』を中心に研究し、「女性の喜びや哀しみをうたった詩が昭和期の特徴である華麗な色彩、繊細な筆致で描き出され、リズムを持った筆致で記された画賛も良く調和している」と評している。
夢二と言えば夢二式美人とともに大正ロマンに代表されるように西洋風と思いがちだが、夢二が好んだ『車塵集』の漢詩は、彼の「心の詩」に相通じるところがある。中国の女性が詠じた詩の佐藤春夫の訳は、単なる訳ではなく、夢二の心を揺さぶる漢詩から生まれた佐藤春夫ワールドの詩になっていると思う。
『車塵集』から紐解いた子川さんの研究は、新たな夢二観を引き出す素晴らしい研究といえ、今後の展開が楽しみだ。
夢二郷土美術館としては、研究力をつけることが課題の一つであったが、この子川さんの研究発表で美術館での夢二研究に向けた足取りの第一歩を記せたと大いに評価している。
続いて、鐸木先生と岡部先生という博識な研究者による講演もあり、今後の夢二研究に弾みをつける結果になったと言えるだろう。