夢二郷土美術館
館長 小嶋光信
2024年9月16日に夢二生誕140年を迎えるということで、竹久夢二学会の理事である岡部昌幸先生(群馬県立近代美術館特別館長)からのご提案で夢二の心のふるさとでもある伊香保と榛名をめぐる記念バスツアーが竹久夢二学会主催で開催され、参加しました。
竹久夢二学会は、夢二郷土美術館が生誕130年のテーマとして開催した巡回展『生誕130年 竹久夢二展—ベル・エポックを生きた夢二とロートレック』を岡部先生に監修していただいた時、岡部先生からの発案で発足した学会で高階秀爾先生(美術史家・美術評論家)が会長をされています。
夢二は詩人であり、画家であり、デザイナーであり、工芸作家でもある非常に多彩な芸術家で、縦割りのジャンルの学会では収まりきらないので夢二個人の名を冠した学会となったのですが、まさにマルチアーティストである夢二に相応しい学会名と言えるでしょう。
今回の伊香保と榛名への訪問は、生誕120年記念展のテーマを「岡山、伊香保 二つのふるさとから」として、生まれ故郷の岡山と夢二の心のふるさとと言える榛名を扱う企画をしたので、夢二の一大コレクターであり夢二研究者でもある故・長田幹雄さんの収集品を納めた竹久夢二伊香保記念館の木暮館長を訪問し、コラボレーションをお願いして以来私にとって3度目の訪問です。
訪問した際、雪から曇り、そして晴れと目まぐるしく天気が変わり、その都度、景色を変えた榛名山と榛名湖を見ていると、夢二が描いた山河の詩画が思い浮かんで来て、あらためて夢二が榛名を心のふるさととしたことが分かったような気がしました。雪景色の中に湖畔に復元された夢二のアトリエを眺め、木立の合間から見える榛名湖と榛名山頂の風景はまさに夢二の描写そのままです。
竹久夢二伊香保記念館では、残念ながら木暮享館長にはお目にかかれませんでしたが、木暮香峰子理事長にお目にかかり、久しぶりにゆっくり《青山河》を拝見しました。
夢二生誕130年を前に小嶋ひろみ館長代理が開設した当館公式Facebookに届いたアラン・ミヤタケさんのメールがきっかけとなって岡山へ里がえりした油彩画《西海岸の裸婦》と頭の中で比べながら、枕屏風に油彩された伊香保の《青山河》をじっくり見てみましたが、白人の女性が描かれた《西海岸の裸婦》と、二重の目に高い鼻、色白とは言えない肌の色をした女性が描かれた《青山河》は、その背景も含めて相違点が多い作品ながら、ふと《西海岸の裸婦》が《青山河》(せいさんが)のもととなっているのではないだろうか?と感じました。
それは《西海岸の裸婦》が当館に里帰りした時、作品を専門家に詳しく調べてもらった結果、当初は下腹部を隠すように布が描かれていたのを塗りつぶして、躊躇いながら全裸の女性として描いた痕跡が明らかになったのに対して、《青山河》の女性は実に躊躇なくスッキリと画面からはみ出すほど大きく大胆に描かれていることなどから、夢二がアメリカを去るにあたりお世話になった友人に贈った《青山河》には、榛名山と彦乃さんとを重ね合わせた郷愁とアメリカで夢二が模索した成果が込められているのではないのだろうかと思っています。
両備グループのニッコー観光バスの夢二生誕130年記念号バスで巡る今回のバスツアーは、岡部先生の計らいで高崎市美術館にて開催中の「旧河村コレクション」を収蔵する福田美術館から出展された約200点の作品展「生誕140年竹久夢二のすべて」を高崎市美術館副館長をはじめ学芸員の皆さんの温かいお出迎えで見学した後、昼食には「清水屋」の手打ち水沢うどんを食して、伊香保記念館を見学、高崎市榛名支所の太田所長に榛名湖までご案内いただいて榛名湖を散策するという盛りだくさんの内容で、素晴らしい生誕140年記念事業の滑り出しとなりました。
今年一年、まだまだ記念事業が続きますので、どうぞお楽しみに!