インフィオラータ 初夏のイタリアを彩る花の絨毯
花びらで描かれる壮麗な花の絨毯「インフィオラータ」は、イタリアの初夏の風物詩です。もともとはカトリックの祝日「聖体祭」にあわせて始まった宗教行事で、聖体の行列が通る道を花で清め、装飾したことが起源とされています。
色とりどりの花びらや種子、木片などを使い、石畳の上に宗教画やモザイク模様を描くその技術は、まさにそのときだけの芸術作品。職人や住民たちが一晩かけて制作し、翌朝には街全体がギャラリーへと変わります。
イタリア各地で開催されますが、特に名高いのがウンブリア州のスペッロ、ローマ近郊のジェンツァーノ、そしてシチリア島のノートです。それぞれに土地の個性があり、同じ花祭りでありながら表情はまったく異なります。
中世の石畳を彩る スペッロのインフィオラータ


イタリア中部ウンブリア州にある小さな丘の町、スペッロ。中世の面影を色濃く残し、「イタリアの最も美しい村」の一つにも数えられています。細い坂道を登って石造りの家並みを抜けると、眼下にはウンブリアの自然が広がり、自然との調和を感じることができます。
インフィオラータの時期になると、その落ち着いた街並みの石畳に、緻密な花の絵画が広がります。花びらで描かれた宗教画や装飾模様が、坂の起伏に沿って続いていく光景は、この丘の町ならでは。素朴な景観と鮮やかな色彩の対比が、互いの美しさを引き立て合います。


また、スペッロではインフィオラータの時期に限らず、家々の玄関やバルコニーに色とりどりの花が飾られています。町全体が花を愛していることが伝わり、歩いているだけで自然と温かい雰囲気につつまれます。


見どころは花の絨毯だけではありません。町の中心に建つサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂のバリオーニ礼拝堂には、ルネサンスの画家ピントリッキオによる繊細なフレスコ画が残されています。また、城壁の外にはローマ時代の邸宅跡であるヴィッラ・デイ・モザイチがあり、保存状態の良いモザイク床を見ることができます。
イタリア最大級の壮大な花の絨毯 ジェンツァーノのインフィオラータ

ローマからおよそ1時間半。ローマの南に位置するジェンツァーノは、インフィオラータの歴史と規模において特筆すべき町です。起源は1778年。250年近い歳月を重ねながら、その伝統は今も大切に受け継がれています。
インフィオラータの会場となるのは町の中心を貫く坂道、ベッリ通り。メインストリートに敷き詰められる花の絨毯は全長約250メートルにおよび、イタリア最大級とも称されます。高台から見下ろすと、色彩の帯が一直線に町を貫いているように見え、その光景は圧巻です。宗教画の再現にとどまらず、近年は平和や環境問題など、時代を映すテーマも取り入れられています。
そして忘れてはならないのが、名物のポルケッタ。ハーブとともに香ばしく焼き上げた豚肉をパンに挟み、花の絨毯を眺めながら味わう時間もまた、この街ならではの楽しみです。
バロック建築と花の芸術の共演 ノートのインフィオラータ


シチリア島南東部に位置するノートは、バロック建築の町として知られています。町全体は「Val di Noto」としてユネスコ世界遺産にも登録されており、はちみつ色の石造建築が連なる景観の中で、毎年5月の第3週末にインフィオラータが開催されます。
会場となるのはニコラチ通り。メインストリートを進み、ドゥオーモを過ぎた先にあるこの通りに、色鮮やかな花のカーペットが敷き詰められます。両脇をバロック建築に囲まれた緩やかな坂道いっぱいに広がる花の装飾は、建築美と色彩芸術が真正面から向き合うような光景です。
毎年異なるテーマが設定され、宗教画に限らず、国や文化を題材にした作品も登場します。過去には「日本」をテーマにした年もあり、花で描かれた異国のモチーフが話題を集めました。
宗教行事の名残を持ちながらも、現在は芸術祭としての性格が色濃く、観光都市らしい華やかさがあります。一方で、通りはそれほど広くないため、祭りの期間中は混雑します。スリなどへの注意も必要です。5月にシチリア旅行を検討しているなら、ノートを訪問先のひとつに加える価値は十分にあるでしょう。
花と人の温もりに包まれる、初夏のイタリアへ
インフィオラータは、地域の人々が心を込めて作り上げる、はかなくも美しい一度きりの芸術です。日常の忙しさを少し手放して、花の香りとともにゆっくりと歩く旅へ。初夏のイタリアを旅するなら、ぜひ一度、その瞬間に立ち会ってみてください。